● 研究概要
エラスチンは、コラーゲンとともに私たちの体を構成する大切なタンパク質です。コラーゲンは骨や歯などの硬さに寄与するタンパク質です。これに対してエラスチンは、血管や肺、皮膚などの組織の弾力性を維持するためのタンパク質です。近年、動物や魚などから抽出された水溶性のエラスチンが健康補助食品や化粧品などに配合されるようになりました。また、低分子量のエラスチンはさまざまな生理活性を示すことがわかっています。私たちの研究室では、天然素材からエラスチンを効率的に抽出する方法、さまざまな生理活性の発見、そして、エラスチンの弾性を利用した分子素材の開発をおこなっています。
一般に、タンパク質やペプチドはアミノ酸へと分解された状態で体内に吸収されます。エラスチンはタンパク質ですので、健康補助食品などに含まれているエラスチンは、分解されて小さいサイズになった後に体内に吸収されると考えられています。そこで、分解された小さなサイズのエラスチン(エラスチン由来ペプチド)がさまざまな効果を発揮するのではないかと予想されています。また、エラスチンは体の中に存在する種々の細胞を活性化する役割を担っています。従って、今後の研究が必要となりますが、血管や皮膚への効果については、動脈硬化や皮膚の老化の予防に効果があるのではないかと期待されています。ところで、エラスチンには分子が自己集合する「コアセルベーション」というユニークな性質があります。このコアセルベーションを利用して、医療用のバイオマテリアルを開発することも期待されています。
我々は、エラスチンの持つ多様な機能を利用して、新しい生体機能材料(バイオマテリアル)の開発へ向けた設計、作製に挑戦しています。そして、開発した材料を人工血管の素材や薬物徐放システム用担体などへ応用することを目指しています。
● 今後の研究(展望)
【動物由来水溶性エラスチンを利用した健康食品の開発】
ブタの大動脈組織や魚の動脈球組織などから、アルカリ製法により水溶性エラスチンを抽出し、バイオマテリアルの開発や健康補助食品の素材としての研究を進めています。様々な生理活性を調べて、有効な成分を高純度に抽出することで、さらに素材の原料として有用な高品質のエラスチンを得るための製造方法を検討しています。
【エラスチン由来ペプチドを利用した医用生体材料の開発】
病気を治すための薬は、体の患部へ到達してから効果を発揮してほしいのですが、実際には必要でない場所へも作用することで副作用を起こすことが問題となっています。そこで、薬を必要な場所へ届け、必要な場所のみで効果を発揮することができるような仕掛けが必要となります。我々は、薬物送達のためのドラッグデリバリーシステム(DDS)とよばれる精密な仕掛けの開発を目指し、エラスチン由来ペプチドを母体として検討しています。また、エラスチンの弾力性を持つ弾性素材の開発も実施中です。
● 研究紹介ムービー
【情報工学部】物理情報工学科 生物物理工学コース 前田衣織研究室